Long-Term Effects of Habitual Barefoot Running and Walking: A Systematic Review
Barefoot LIFEプロジェクトを実施中のHollanderのレビュー論文。このレビューはプロジェクトで被験者を選定する時の定義を明確にするために実施した模様。
Habitual Barefoot=「はだし族」
INTRO
はだしでの運動は、近年スポーツと健康分野にとっての重要な興味と関心を得ている。そして、はだしランナーや裸足感覚シューズを履く人数の増加に繋がっている。さらに、はだしでの運動は研究者と臨床医に学術的な注目を得て、多数の学術論文と統系的レビューが公表されて来た。これまで、可能性のある利益だけでなく、はだしの運動に関係するリスクについての相反する議論が進行中である。はだしと靴のウォーキングとランニングに関する短期的影響は子供も大人でも調査され、シューズランからはだしランへの移行はランニング障害のより大きなリスクになるかもしれないと示唆された。
その後、はだしラン・歩行の長期的な影響についての更なる研究が必要であると、大部分の研究者たちは結論づけている。しかし、我々の知る限りでは、こうした異質な研究がほとんどなく、長期間のhabitual barefoot=「はだし族」の運動についての系統的アプローチによる文献レビューが存在しない。ごく最近の2つのレビューは物語的な性格があり、一つは長期的影響について思索しているだけである。したがって、臨床的ガイダンスのために結論を導き出す可能性は制限されている。このように、現在のエビデンスに基づいた広範囲の系統的合成が、更なる研究とガイダンスの臨床的議論を方向付けるために必要である。日常生活やエクササイズが裸足で定期的に実施されている人々の評価は、ランダムに割り当てられたはだしと靴の集団における見逃されて来た長期的問題に対処することができる。
これまでの研究の前後関係を踏まえて、今回の系統的レビューの目的は、バイオメカニクス、足の形態、運動能力と健康問題(怪我と病気)の観点から、「はだし族」の運動の影響に関してこれまでのエビデンスをまとめて、この分野の今後の研究に繋げることである。
METHODS
検索方法
今回のレビューは、MoherらのPreferred reporting items for systematic reviews and meta-analysesSystematic Reviewsに準じて実施した。
レビュー・プロトコルは、ヨーク大学で登録された。: 登録番号CRD42015024541
英国ヨーク大学(The University of York)にあるレビュー普及センター。当センターがまとめる体系的レビューの詳細内容の閲覧、DARE等のデータベースの検索、コクランライブラリの使い方に関する資料のダウンロードなどができる。
本研究では、包含基準と除外基準は、事前に決定された。包含基準は、RCT、ケースコントロール研究、コホート研究、横断的研究の中で、「はだし族」の個人と靴を履いているコントロールとを比較した査読付き論文とした。子供、青少年、大人、高齢者を対象としたバイオメカニクス、足の形態、運動能力、怪我を調査している研究が検討された。除外基準は、糖尿病、神経筋・心臓血管疾患といった医学的病態を持つ対象者について報告している研究とした。
2015年8月(2016年1月に再実施)まで、Ovid MEDLINE, EMBASE, Cochrane Library, Web of Science, を用いて以下のキーワードを使用して検索した:
running OR walking AND habitual walking OR habitual running OR regular walking OR regular running OR habitual barefoot OR habitual shod OR regular barefoot OR regular shod AND barefoot OR shod OR footwear OR shoe OR foot OR arch OR plantar pressure OR ground reaction force OR biomechanic OR kinetic OR dynamic OR kinematic OR motor performance OR injury OR health OR physical activity.
検索を制限するために、ブール演算NOTが、以下キーワードで用いられた。
neuropath OR diabetes OR cerebral palsy OR stroke
主に、論文タイトルとアブストラクトに基づく有効な研究のリストを準備するために、データベースを検索した。
2人の独立したレビュアー(K. H.とC. H.)は、コンセンサスを得るための3人目のレビュアー(A. Z.)と共に関連する研究を仕分けした。
そして、仕分けされた研究は、タイトル、次にアブストラクト、最後に全文が包含基準に対して検証された。
取り込まれた文献の書籍ーグラフィック情報は、さらに関連した引用がないか調査された。
引用の調査はWeb of Scienceを用いた。
検索は英語、ドイツ語、オランダ語、スペイン語の査読付きジャーナル掲載された文献に限られた。
RCT、ケースコントロール研究、コホート研究、横断的研究は含まれたが、レビュー、系統的レビュー、論評、事例研究と症例シリーズ研究は除外された。
Data extraction and quality analysis
データ収集は、2人のレビュアー(K. H.とC. H.)によって独立して実施された。
以下のデータが得られた:
研究デザイン、被験者特性(被験者数、年齢、性別、地理的分布)、主要な効果指標、さらにあれば「はだし族」の定義
Hallらが用いた修正された質的評価に加えて、履物の習慣的使用をランダム化することができないために、ランダム化された介入に関する質問(No.24)は、除外された。
「はだし族」の定義がされていれば、質問No.4(興味に対する介入)は「Yes」とした。
このように、20点満点で点数付けされた。
コンセンサスが得られなければ、4人目のレビュアー(A. Z.)が追加で質的評価をするよう依頼された。
評価スコアは、調査された研究についてlow (score,<6), moderate (score, 7–13), high quality (score≧14) 、と区分けされた
統計処理
メタ分析は、関連データが複数の比較された母集団に見つかるのであれば、Review Manager5.3 (The Nordic Cochrane Centre, The Cochrane Collaboration, Copenhagen, Denmark (※コクランライブラリーの報告様式に基づいたシステマティックレビューを行うために開発されたフリーソフト)で実行された。 不十分な情報が文献に示された場合、著者らは追加データを得るために連絡を取った。データを比較可能にするため、正値が背屈を示すように、矢状面の足関節角度は変更された。研究が比較できる方法論で関連する結果を検証していれば統合された。このように我々は、バイオメカニクス、足の形態、足アーチに関連する効果指標における平均値と標準偏差を含めた。Random effects model (REM): ランダム効果モデルは、すべての測定値(P < 0.05)のために標準化平均差(SMD)を計算するのに用いられた。
Standardised mean difference (SMD)(標準化平均差): 2つの推定平均値の差を標準偏差の推定値で割ったもの。痛みのように、同一の連続変数を研究間で異なる尺度で測定している研究結果を統合するために使われる。効果を標準化した値で表現すると単位がなくなるため、結果を統合可能となる。標準化平均差をd指標とよぶこともある。 #統計用語集 I2統計量とχ2検定が、統計的な異質性(Heterogeneity)に対する検定に用いられた(P < 0.05)。
pooled effect size(統合効果量:PE)は、Bartonらに倣ってsmall(≤0.59)、medium(0.60–1.19)、large(≥1.20)と決められた。
Level of evidence
RESULT
検索結果
最初の検索結果は、476件の重複を除いた2535件の研究が見つかった。重複データの削除は、同じタイトルで同じ著者の文献を確認することを手作業で行った。さらに、15件の研究は他のソースを通して入手した。 これら15件の研究は包含基準を満たしたので、質的評価に含めた。そのうち、6件はバイオメカニクス、5件は足の形態学、3件は足アーチについて調査されていた。(※重複あり) 残りの1件は怪我の発生率を検討していて、もう1件の研究は疾病について調査していた。運動能力を調査した研究はなかった。完全な選定プロセスは、図1に記載されている。
Characteristics of Included Studies
対象となった全ての研究の特徴は、表1にまとめられている。「はだし族」を被験者とした大部分の研究は、アジアとアフリカで行われた(図2)。7件の研究はランニング愛好家と競技ランナーについて報告したが、8件の研究は対象者のスポーツ活動を指定しなかった。これらの研究は、健康な子供たち、成人と”はだしの漁師”について報告した。
「はだし族」と靴グループを比較しているRCTは存在しなかった。 大部分の研究は、横断的研究か観察的コホート研究だった。 調査研究(survey study)は2件あり、そして、前向き研究はわずか1件であった。今回の系統的レビューにおいて、研究のサンプルサイズは、38名から2300名の間で、合計8399名であった。
バイアスのリスクスコアは表1で見ることができる(付録表3に質的評価、Modified Downs and Black Scoreが記載されている。http://links.lww.com/MSS/A801 )。 20点満点中11点以上の研究はなかった。(※Raoら1992の研究は13点) したがって、いずれの研究もバイアスのリスクが高く、12件はmoderate、3件はhighであった。 効果量の見方
±0.2は、小さい効果
±0.5は、中等度の効果
±0.8以上は、大きい効果
バイオメカニクス
運動学的変数
3件の研究のプール解析は、大きな統合効果量(-3.47; 95%のCI-5.18~-1.76)(図3.1)で、「はだし族」のランニング動作が靴グールプと比べてfootstrike時に足関節の背屈角度が減少するという、限られたエビデンスを示した(I2 = 93%、P < 0.0001)。膝の運動学に関する統合効果量は-0.25(95%のCI-1.34~0.85)であり、footstrike時の膝の関節角度は相反するエビデンスであった(I2 = 86%、P < 0.0001)(図3.2)。1件の研究の非常に限られたエビデンスでは、「はだし族」ランナーは股関節屈曲を減少させ、足関節のピーク外反角を高め、股関節の最大内旋角を高めることが明らかにされた。
1件の研究の非常に限られたエビデンスは、「はだし族」ランナーが、計測結果と自己申告それぞれで、踵接地の割合が減少することを示していた。さらに、「はだし族」はMP関節の背屈(伸展)が減少することを明らかにした。
時間空間的パラメーター:ピッチ、ストライド長、接地時間など
3件の研究は時間空間的パラメーターを調べ、非常に限られたエビデンスでは、「はだし族」ランナーとそうでないランナーの間で、接地時間・ストライド長・ストライド時間の減少とピッチの増加がみられた。「はだし族」の歩行については、接地時間が延長するという非常に限られたエビデンスが存在した。
力学的変数
「はだし族」ランナーは、vertical loading rate(イニシャルコンタクトーインパクトピークまでのz成分の傾き)が減少し、インパクトピークが減少するか、出現しないという非常に限られたエビデンスがある。「はだし族」ランナーの床反力ー時間曲線は通常1つのピークになるが、靴ランナーは2つのピーク(接地時とその後のピーク)がみられる。1件の研究が「はだし族」は踵と、第2、3中足骨付近のピーク足圧が低く、中足部の外側とつま先のピーク足圧が高くなることを明らかにした。
足部の計測
足部の形態学
合計5件の研究は、足の形態的特徴について述べていた。 足長、足幅と母趾角度は、メタアナリシスで評価された(図4と5)。「はだし族」は靴グループよりも、足幅が広いが(小さな統合効果量、0.55; 95%CI、0.06–1.05)、足長は小さくなかった(統合効果量、-0.22; 95%CI-0.51~0.08)。身長で相対化すると、「はだし族」は靴グループより足が大きいことが示された。「はだし族」の人々において、2件の研究は、外反母趾角が小さいことを明らかにした(中程度の統合効果量、-1.16; 95%CI、-1.64~-0.68)、成人では有意差があったが(大きな統合効果量、-1.35; 95%CI、-1.73~-0.97)、18才未満には有意差がなかった(図5)。
「はだし族」は足部の柔軟性がより高いという非常に限られたエビデンスであった。
足アーチ
2件の研究は子供たちの扁平足の比率を比較し、「はだし族」の子供は靴グループと比較して扁平足が発生率が減少するという限られたエビデンスが示された。
あるの研究は「はだし族」の人々のより高い扁平足の発生率を示し、別の研究は舟状骨高に有意差がないことを示すという、相反するエビデンスが示された証拠が見つかった。
motor performance
運動能力のアウトカムについて報告された研究はなかった。わずか3件の研究が、「はだし族」ランナーの自己ベストとトレーニング方法について言及した。このように、「はだし族」の運動の運動能力への影響について研究されたエビデンスが、今のところ存在していない。
怪我と病気
1件の研究は、靴グループと「はだし族」ランナーの間で、怪我の発生率を比較した。「はだし族」は怪我のパターンが違うこと、足裏の怪我がしばしば起こることを、非常に限られたエビデンスは示唆した。怪我の発生率が走行距離に関連しているものは見つからなかった。「はだし族」は足の変形や問題が少ないが、足病が多いことを1件の研究が明らかにした。
DISCUSSION
この系統的レビューは、靴グループの運動と比較して「はだし族」の影響について、これまでの知見を統合する初めてのものである。この分野で質の高い研究が欠如しているため、「はだし族」の運動を意味付ける決定的なエビデンスを提供することは困難である。それでも、バイオメカニクスと足部の計測アウトカムについての探索的なメタアナリシスは、実行可能であった。主な知見は、「はだし族」の運動のバイオメカニクスと足と怪我に対する影響を明らかにした。これらの知見の全ては、限られているか、非常に限られたエビデンスを示した。
これまでの研究の限界と方法の検討
「はだし族」と靴グループを比較したRCTは発見されなかった。前向き研究デザインを用いている研究は1件だけであった。これは、因果関係に関して結論を出すことと、しっかりとした提案を提供することを否定している。
the modified Downs and Black Quality Indexを用いたが、どの文献も"high quality"として評価されなかった。抽出された文献は主に報告妥当性と内的妥当性(バイアス)で良い価値を示すが、すべての研究において盲検化が不足している。たとえ盲検化することが「はだし族」の研究であまり可能でないかもしれないとしても、バイアスのリスクを減らす必要がある。さらにまた、文献は外的妥当性が低いため、交絡因子に影響されやすい。選択バイアスは、大部分の文献で示されなかったか、議論されなかった。パワーアナリシスはほとんどが事前に実施されていなかった。
選択された研究により提供される高い異質性(臨床的異質性)が、異なる人種を比較することを難しくしている。地理的分布に見られるように(図2)、「はだし族」集団は主にアフリカとアジアで見つかった。調査された人々に十分な靴グループがいない場合、データはアメリカ人またはヨーロッパ人の集団と比較された。「はだし族」の人々について報告しているいくつかの他の研究は、靴グループと比較しなかったので、系統的レビューに含めることができなかった。しっかりと研究する集団を定めることと、質の高い前向き研究の土台を標準化することは、大きな課題として残っている。
これまでの研究のもう一つの限界は、「はだし族」について共通する定義を用いることに整合性がないことである。AltmanとDavisが「はだし族」ランナーを”年間走行距離の少なくとも50%を裸足で走る”と定義するが、他の研究では裸または裸足感覚シューズを履いている時間が66%または80%としていた。一部の著者は「はだし族」集団を生活全てを裸足で過ごすと定義するか、単に対象者が生活する地域で”はだしで歩くことが一般的である”と述べているにとどまった。この分類は自己報告または観察によるものであり、1件の研究のみ履物の習慣について短いアンケートを使ったが、その結果も定義についても報告しなかった。
バイオメカニクス
運動学
「はだし族」ランナーは、矢状面の足関節運動学に置いてfootstrike時により大きく底屈するという、限られたエビデンスが示された。この知見ははだしランニングの短期的な影響について見ている他の横断研究に類似している。接地時の底屈位は、選択された研究で報告された、前足部/中足部接地の増加率と一致していた。矢状面の膝関節運動学における知見はまだ相反していて、初期接地時に大きな屈曲角度みられた研究があったが、他の研究では必ずしも確認できなかった。(歩行時)「はだし族」のランニングでは、膝関節運動学に関するエビデンスも相反している。さらに、走速度と過去の怪我にはバイオメカニクス的な影響があり、したがって交絡のために評価されるべきだが、これはめったに考慮されなかった。
時間空間的パラメーター:ピッチ、ストライド長、接地時間など
「はだし族」のランニングでは、靴の着用と非着用でストライド長・ストライド時間の減少とピッチの増加という、非常に限られたエビデンスが示された。(走)速度が「はだし族」か靴の状況で比較されるのであれば、これらの変数はお互いにすべて関連がある。裸足と靴の間の異なる走速度は、従って結果に影響するかもしれず、潜在的制限因子として覚えておく必要がある。1件の研究だけは実験中の平均速度について言及したが、他の研究は実験中の走速度をコントロールした。
これらの時間空間的パラメーターの知見は、裸足ランニングの短期的影響における調査と一致し、障害予防に有益であると議論している。「はだし族」の歩行では、接地(立脚)時間が延長する非常に限られたエビデンスが示され、それは歩行速度の交絡要因として議論されている。
力学的変数
「はだし族」では、vertical loading rate(イニシャルコンタクトーインパクトピークまでのz成分の傾き)と鉛直成分のピークが減少するという非常に限られたエビデンスを示した。これは、子供たちと成人における裸足ランニングの短期的影響と一致している。ストライド長の減少によるピッチの増加は、床反力の低下と関係しているかもしれない。
裸足ランニングの短期的影響における他の研究に見られるように、床反力ー時間曲線は裸足と靴では異なる。靴でのランニングは床反力ー時間曲線に2つのピークがしばしば観察されるが、裸足ランニングでは1つのピークである。靴による余分なピークの原因は、接地時の後足部(踵)接地によると考えられている。しかし、このピークがもたらす結果は、特に障害発生率において、これまでのところ明らかにされていない。
歩行中、「はだし族」は踵と中足骨の中央部付近のピーク足圧が低くと中足部外側のピーク足圧低いことが明らかにされた。「はだし族」足裏の皮膚は、”thick and tough”と言われている。おそらく、いつも靴を履いている人の薄い足裏の皮膚と比較して、より均等に分散された足圧が原因である。さらに、歩行速度がすべての研究でコントロールされていなかったので、わずかな違いが足圧の違いにつながるのも当然であった。このことから、足圧分布をよりよく比較するためには、今後の研究は速度を揃える必要がある。
足部の計測
足部の形態学
「はだし族」は足幅が広く、外反母趾角が減少する傾向があるという、限られたエビデンスが示された。しかし、身長で相対化すると、足幅は広くなくむしろ足長が大きかった。他の研究は、「はだし族」の生活が足幅を広くするという知見を支持しない。過体重や関節弛緩性のような、いくつかの要因に影響される足部の形態について考えてみると、交絡因子について評価されなかったため、これらのデータから結論を出すことは困難である。選択された研究は、足裏の写真から2本の内側の接線間の角度を使って外反母趾角を定義した。それらの2本の線は、それぞれ、第一MP関節の内側から踵の内側と母趾の内側に引かれる。臨床場面では、第一中足骨と近位指節骨の間の角度によって定義される外反母趾角のX線撮影は推奨されるが、足裏画像による計測は現場で用いることが可能である。さらに、「はだし族」の外反母趾角の減少のエビデンスは、低い外反母趾の有病率と一致する。習慣的な靴の使用は、外反母趾の病因的因子であると議論されてきた。しかし、近年のレビューでは外反母趾に至るいくつかの要因の1つであることが示された。Kadambandeらによって発見された靴グループの足部柔軟性の減少は、子供たちにとって、靴着用時に第一MP関節の可動域を減らす適応かもしれない。このように、たとえそれが長い間科学的な関心であるとしても、もっと長期的なもしくは前向きな研究が足部の形態学における習慣的な靴着用の影響を理解するために必要である。
足アーチ
「はだし族」の子供たちは、扁平足の発生率が少ないという限られたエビデンスがある。これは、扁平足発生率が小さい頃から靴を着用するとより高くなるという知見に沿うものである。この知見と比較すると、相反するエビデンスは、成人の足アーチで明らかにされた。また、アフリカ人(マラウイ)とヨーロッパ人(オランダ)の成人のアーチを比較している他の研究で、統計的に有意に低いアーチ高率(=ローアーチ?)が報告された。※Niki M. Stolwijk(58)らの研究ではアーチ高率がそれぞれ、マラウイ(15%)、オランダ(20%)とマラウイ人は正常なアーチであった。むしろオランダ人がハイアーチと言える。 異なる人種間でアーチ高計測のためにフットプリントを用いることは難しいかもれない。「はだし族」もしくは「はだし族」と靴グループさえ、同じ国の中にめったに分布していない(図2)。足アーチ病態における靴の影響を理解することは臨床的に非常に重要であり、今後の長期的研究と評価方法の検討について進められるべきである。
Motor Performance
オリンピックまたは世界的大きなマラソンで成功した長距離ランナーは、高い影響があり、はだしの走り方がより効率的であるとの考えを呼び起こす。自分自身を「エリート」と思う若い男性のランナーは、裸足ランニングに最も高い関心がある。科学的に、運動能力とランニングエコノミーについて見る時、相反する結果があり、この系統的レビューは「はだし族」ランナーの運動能力向上に関する少しのエビデンスも説明することができなかった。重要なエネルギー充填装置である足のアーチは靴によって減少されるのか、機能低下させられるのか、議論されている。しかしこの関係については、質の高い調査で確かめられる必要がまだある。
怪我
はだし、または裸足感覚シューズでのランニングを試みるランナーの主な動機づけは、障害予防である。1件の研究だけが、靴グループと「はだし族」ランナーの間で、障害発生率を調査した。このように、この系統的レビューでは怪我のパターンが異なるという非常に限られたエビデンスと、走行距離によって障害発生率が異なるというエビデンスが存在しないことを明らかにした。幅広い観点から、はだしと靴のランニングにおける利点と危険性について見るとき、この知見はこれまでの研究の巨大な研究ギャップを示している。最初の前向き研究は裸足ランニングの怪我の危険性を説明しようと試みたが、しっかりとした提案をする前に、より多くの研究が必要である。
Clinical and Research Implications
はだしでの運動における前向きな影響は幅広く推察されたが、はだしでの運動とはだしランニングへの適応について考えられる利点と危険性については議論が進行中である。これまでのところ、臨床適応としてアドバイスするにはジレンマがある。短期的な裸足ランニングが走動作の変化を引き起こすことが示されたが、習慣的な靴の着用が長期のバイオメカニクス的な適応(足関節運動学、ピッチ、ストライド長、床反力鉛直成分)につながるという限られたエビデンスが存在する。それでも、最適な足の発達と足病の部分的な予防のために、はだしでの運動は有益なようである。そして、靴の着用が避けられない時、その靴は柔軟性があり、フラットで、軽く、締め付けがあってはいけない。
怪我に関する議論において、障害予防または怪我の治療に関して臨床的にしっかりとした結論を出すための、十分なエビデンスは提供されなかった。特定の障害パターン(腸脛靭帯炎、膝蓋大隊関節炎、臀部、ハムの筋損傷や腱炎、足底腱膜炎)には裸足ランニングが有益かもしれないが、一方で他(アキレス腱炎、腓骨筋・腓腹筋・ヒラメ筋・後脛骨筋の筋損傷と腱炎)は靴のランニングが有益かもしれない合理性が見られる。運動能力に関するトレーニングのための適切な結論は、この論文では出すことができない。
最後に、この系統的レビューにおいて調査された全ての関連するアウトカムにおいて、よりよく臨床適応に繋げるために、関連する交絡因子(例えば民族性、生活習慣、文化、居住地域と食事)を考慮に入れた、より適切にデザインされた研究をする必要がある。今後の研究の外的妥当性を確実にするために、研究者は前向き研究デザインを利用するか、セッティング、人数と調査された民族の背景に対する思慮深い考慮を行った、大規模な疫学的研究を行わなければならない。時間は外的妥当性に対する脅威であるので、本稿で示される結果のいくらかはむしろ古くて、新たな調査が必要となるかもしれないことを心にとめておく必要がある。
”habitual barefootness’”の定義は見逃され、本稿では一貫性のない説明をするだけであった。選択された研究のわずか3分の2しか、「はだし族」に関する定義を用いなかった。大部分の研究は自己申告による分類を適用し、1件の研究だけは観察とインタビューによって「はだし族」ランナーを特定した。
CONCLUSIONS
はだしでの運動についての短期的影響に関する研究が沢山あるにもかかわらず、長期的影響についてはほとんどエビデンスが存在していない。そのため、現在のデータから得られる結論は困難であり、大部分は推測的なままである。バイオメカニクスや足の計測に関するアウトカムのためのエビデンスはほとんど発見されなかったため、怪我の発生率や足の病態といった臨床的意味のあるアウトカムとなるエビデンスはほとんどなかった。さらに、「はだし族」の運動能力への影響は不明なままである。「はだし族」な人種を分析するか、1つの集団内で「はだし族」と靴グループを比較することは、はだしでの運動の長期的影響について、若干の効果の確認を補足することになる。しかし、それはしっかりと計画された前向きRCTの代わりにはならない。これまでの研究の大部分は研究の質が低く、盲検化と外的妥当性の欠如があり、選択バイアスの傾向があるかもしれない。さらに、分析された研究は、「はだし族」の定義に関して矛盾が多い。異なる定義の他に、大部分の研究は自己申告による分類を用いていた。従って、「はだし族」を定義するためのコンセンサスが必要であり、将来の研究がこれらの欠点に対処し、「はだし族」の明確な定義を用いる必要があると、我々は結論した。
総合評価:A
はだしの学術論文をしっかりと精査し、系統的レビューを実施したところが評価高い。この分野における研究に足りないものがよく理解できた。その上で、日本の「はだし教育」についてはもっと焦点が当てられても良いはずだし、自分自身が質の高い研究を実施しなくてはならないと感じた。また、東南アジア地区はいわゆる「はだし族」がたくさん存在しているので、文明社会の影響を受ける前に、フィールド調査を実施したいと感じた。